日米比較で考える営業生産性向上に向けた取り組み

日米比較で考える営業生産性向上に向けた取り組み

政府による働き方改革の提唱や市場競争の激化、そして昨今の激しい環境変化の影響を受け、多くの企業で「生産性向上」が叫ばれています。

本記事では、高い生産性を誇る米国において、私が数々のセールスイネーブルメントリーダーや営業パーソンと日々関わる中で見えてきた、営業生産性向上のための取り組みのうち、日本の営業組織にも応用いただけそうな取り組みをいくつかピックアップしてご紹介したいと思います。

1.国際的に見ても低い日本の営業生産性

営業生産性とは一般的に「投入したリソース(労力・時間・費用など)に対してどの程度のリターン(売上・利益・付加価値など)を得られているのかを示す指標」のことをいいます。営業生産性を測る指標はいくつかありますが、粗利(売上高総利益率)を営業コストで割り戻すことで求められる「営業ROI」は代表的な指標の一つといえるでしょう。

日本企業が世界経済を席巻していた1980年代後半、日本の高い生産性は世界で話題となっていました。しかしながら、2021年2月のマッキンゼーレポート『Why is Japan Sales Productivity so low(なぜ日本の営業生産性は低いのか)』によると、日本の営業ROIは他国と比較し、実に半分~4分の1に留まっているという結果が報告されています。

参考:  マッキンゼー・アンド・カンパニー『日本の営業生産性はなぜ低いのか』(2021年2月)

2.日米比較に見る日本の営業生産性が低い訳

なぜ、日本の営業生産性はこれほどまでに低くなってしまったのでしょうか。主要先進国の中でも生産性が高いといわれる米国の営業との違いから、その理由を紐解いていきましょう。

ときに行き過ぎてしまう顧客第一主義

冒頭でご紹介したマッキンゼーのレポートでも触れられていますが、「顧客第一主義」の日本の営業組織で起こりがちな事象として次のようなものがあります。

  • 「顧客第一主義」という思想の下、非効率なことを正当化しやすい。極端な例だと請求書のフォーマットでさえ顧客要望に合わせてしまう
  • 顧客の優先順位付けにおいて「取引期間の長さ」や「関係性の深さ」といったことを重視する傾向にあり、「自社に利益をもたらす」という意味で本当の顧客なのか判断を見誤ってしまう

私も、実際に現在生活の拠点としている米国において、BtoC、BtoB問わず多種多様な業界で活躍する営業パーソンと話をしたり、実際に自分自身が営業を受ける機会も多いですが、営業パーソンが顧客に過剰にへりくだったり気を遣ったりすることはほとんどないように感じます。

このあたりは、文化や習慣、言語などに影響するところも大いにあるため、一概にコミュニケーションの取り方を地域ごとで比較し、善し悪しを論ずることはナンセンスかと思いますし、「顧客第一主義」を掲げながら成功しているグローバルカンパニーが多く存在しているという事実を否定するものでもありません。

  • 顧客要望に応えられる部分とそうでない部分をしっかりと線引きすることで、集中すべき顧客や案件を明確にする
  • 顧客要望を鵜呑みにするのではなく、顧客に負けない知識や事例などを身につけ顧客と対等に議論することで、双方にとってwinとなる策を見出す

これらが日々の営業活動の中で当然のように行われていることが、自社にとっての“本当の”顧客要望を満たしつつも、高い生産性の維持を実現させるためのポイントではないかと考えています。

顧客と対等に議論

思うように進まない分業制への移行

日本の営業現場でもSaaS企業を中心に分業制への移行が進み始めていますが、複雑なソリューションを扱う企業ほど、「1人で一気通貫で顧客を担当しないと顧客に最適な提案やサービスの提供ができない」といった課題を抱えているケースも多いです。分業制が向かない業界や組織ももちろん存在すると思いますが、まずは分業制をうまく機能させるためのポイントを理解したうえで、改めて自社にフィットしそうかご検討いただくことをお勧めします。

これは、弊社米国事務所で使用するシステムの導入を検討していたときの話です。

私は、システムについて簡易な説明を受ける機会を得るために、ベンダーのWebサイトから面談を設定したところ、面談前に担当のインサイドセールスからコールがありました。30分程度こちらのニーズヒアリングが行われましたが、会話と質問を織り交ぜながらのラポール形成が実にお見事でした。

その後フィールドセールスとのオンライン面談が実施されましたが、ベテラン感漂う担当者からは、「先日インサイドセールスを担当した者から引き継ぎを受け、お話しいただいた内容もレコーディングですべて把握しておりますのでご安心ください」と冒頭から頼もしいコメントがあり、実際に面談中にストレスを感じることは一切ありませんでした。

営業分業制には、各ステージの“専門家”が顧客に的確な情報提供やアドバイスを行うことができるというメリットがある一方、組織間連携が行われていないと「担当が代わるごとに毎回最初から説明しなければならない」「こちらの情報を伝えても関係者間でまったく共有されていない」といった不信感を顧客に与えてしまうリスクも生じてしまいがちです。

分業化に成功し、生産性向上を実現している米国企業ではどのような取り組みがなされているのでしょうか。

  • 積極的にシステムへ投資し、活用を促す

分業制に成功している組織の多くは、積極的なIT投資を行っています。前述の例でも、担当者間の引き継ぎを漏れなく、円滑に行うためのシステム導入と活用が進んでいる印象を受けました。米国のイネーブルメント担当者と会話していても、商談時のレコーディング内容が自動で文字起こしされるようなシステムは広く導入されており、面談メモを取る時間の削減や、聞き間違い・漏れといったトラブル回避の一助となっているといったことをよく聞きます。

  • 役割ごとに求められるスキルを徹底的に高め、専門家を育てる

また、これらの企業は、分業制によるメリットを最大化すべく、IS、FS、CSや、SMB、エンタープライズなど担当領域ごとの専門家を育てる体制を整備していることも特徴としてあげられます。

日本の営業パーソンは、情報収集、ヒアリング、提案資料作成、商談、見積もり作成、社内調整、契約締結、継続支援など営業活動に関わるすべての範囲を1人でカバーすべく多岐にわたるスキルを習得しなければなりませんが、分業化が進む米国の営業パーソンは、必要とされるスキルの数が少ない分、その道の専門家として必要なスキルを徹底的に高めています。

人材流動化時代に営業組織が抱える課題

近年の激しい競争を生き抜くために、終身雇用や年功序列に代表される「日本的メンバーシップ雇用」から、あらかじめ定義された職務に合う人材を採用する「欧米的ジョブ型雇用」へのシフトチェンジを図る企業が日本でも増えてきました。企業にとっては専門性の高い人材を獲得することで競争力を強化したり、労働者にとっては活躍の幅が広がることでキャリアアップを実現しやすくなりつつあるといえます。

営業組織においても例外ではなく、人材の流動性が高まりを見せつつある中、一部の優秀な人材に依存した組織体制からの脱却は最重要テーマの一つとなっています。

一方、従来「転職率30%は普通。むしろヘルシー」といわれている米国。地域によって事情は異なれど、ここNew Yorkで私が見聞きした限りでも大体3~5年に一度のペースで転職している印象です。

米国の営業の給与体系は基本的にコミッション制が多く、成果を出せば出すほど多額のインセンティブが支払われます。「1回のボーナスで家を買った」という営業パーソンと出会うことも珍しくありません。そのため営業パーソンは、よりよい待遇や環境を求めて“売りやすい”製品やサービスを提供している会社へと転職するのです。

では、これだけ流動性が高い雇用環境下、米国企業の営業組織は高い生産性を維持するためにどのような工夫をしているのでしょうか。

  • イネーブルメント専門組織を立ち上げ、組織で生産性向上を図る仕組みを構築する

米国ではジョブ型雇用が一般的であるため、各ポジションや職種に期待される成果・期待行動・求められるスキルや知識などがあらかじめ明確化されています。

条件を満たす人材を採用しつづけることができれば組織の弱体化を防げるかもしれませんが、そうでない場合、中途社員を即戦力化する仕組みを整えておくことが重要です。

達成すべき成果を起点に、必要な行動要件を抽出し、その行動をとるために習得すべきスキル・知識を整理したうえで、成長を促すプログラムを提供するセールスイネーブルメントはまさにその最適解として導入が進んでいるのです。

3.“人の成長”による営業生産性向上を実現するセールスイネーブルメント

アメリカ人管理職に聞く「営業マネージャーの使命」

私には、南米諸国を点々としながらセミリタイア暮らしをしているアメリカ人の友人(50代)がいます。

彼は、大学卒業後、軍隊に従事、その後生命保険の営業を経て管理職に上り詰めた人です。20年弱営業部門で働いた後、ある程度お金が溜まったということで、パンデミックを機に旅をしながらオンラインで気が向いた時に英語を教えています。

そんな彼と先日オンラインで話す機会があり、インタビューがてら「営業マネージャーの役割って何だと思う?」と聞いてみたところ、「チームメンバー一人ひとりの生産性向上をサポートすること」という回答がありました。もちろん、チームメンバーやその家族に対し責任を負うことの重要性についても言葉の端々から感じられましたが、“They work for me”と力強く話す彼の言葉の根底には、「部下の成果こそが自分の成果である」という考えがあるようでした。

2010年代、欧米企業を中心に急速に広まったセールスイネーブルメントは、近年日本でも営業DX化やパンデミックの影響を受け、「人の成長を通じた持続的な営業成果創出の仕組み」として大手からスタートアップまで、さまざまな企業で導入が加速しています。

弊社がご支援するお客様もそうですが、環境変化に適応しながら成果を出しつづけるためには、一部のできる営業パーソンや営業マネージャーに依存するのではなく、営業組織全体の底上げが求められているのです。

セールスイネーブルメントのコアとなるスキルマップ

セールスイネーブルメントでは、営業組織開発や制度設計、育成やツール活用などの要素が有機的に機能することで「人の行動」が変わり、「継続的な成果」の創出につなげていきますが、この一見壮大かつ複雑で難しそうに見える営みの起点となるのが“人の成長”であると私たちは捉えています。

そのうえで、営業パーソンが“成果を創出できる(Enable)ようになる”ためには、イネーブルメントのコアとなるスキルマップの作成がお勧めです。スキルマップは「営業の成果創出に必要とされる「行動」「スキル・ナレッジ」を体系的に整理したもの」をいいますが、その作成には一定の専門性が求められるため、何から手をつけるべきか悩んでしまうケースや一度作成したものの精度に自信がなく活用が進まないといったケースも多く見受けられます。

そんなときはぜひ弊社までご相談いただきたいですが、まずはハイパフォーマー分析をしてみるだけでも見えてくるものがあると思います。成果を出している人たちは、日々の営業活動の中でどのように営業プロセスを前進させ、そのために何を行っているのか、ヒアリングを通じて可視化します。余力があればアベレージパフォーマーの行動と比較することで、「成果創出に必要な行動」と「無駄につながりやすい行動」がよりくっきりと浮かび上がってきます。

成果につながる行動が見えたら、その行動をとるために必要なスキルやナレッジ含めスキルマップで整理していきましょう。

スキルマップ作成は、CRMやSFAなどの営業支援システムを導入していなくても実行可能なのでお試しいただきたい手法です。また、弊社が提供しているセールスイネーブルメントツールEnablement Appには、いくつものスキルマップが標準実装されていますので、ご興味がございましたらお気軽にお問い合わせください。

成果創出に必要とされる「行動」「スキル・ナレッジ」を体系的に整理したスキルマップ

スキルマップを生産性向上施策へ展開

スキルマップは、例えば次のようなシーンで営業生産性の向上にお役立ていただけます。

システムの選定

  • 「なんとなく役に立ちそう」という漠然としたイメージではなく、成果につながる「Aという行動」と「Bという行動」を効率化するため、または精度を向上させるためには、このシステムが適している、といった確かな論拠をもって最適なシステムを選定できるようになり、導入後の投資対効果も測りやすくなる

育成施策の設計

  • 自部門の営業パーソン個々人に不足している(より成長が期待できる)スキルに的を絞った育成プログラムの提供が可能となり、効率的な営業力強化が行える

ナレッジマネジメント

  • 個々の営業パーソンがもつ暗黙知が形式知化されることで、組織全体の底上げにつながる

上司・部下間のコミュニケーション

  • 期待行動、またそれを行う際に必要な知識やナレッジが共通言語化されることで、上司・部下相互に納得感あるフィードバックが可能となり、ミスコミュニケーションが軽減できる
  • (特に、海外進出している日系企業のマネージャーのような、多種多様なバックグラウンドをもつ部下とのコミュニケーションが頻発する立場の方には有効な活用方法といえる)

業務アサイン・人材配置

  • 部下の得意・不得意が可視化されることで、マネージャーの「勘」に頼ることなく適切な業務アサインや配置ができるようになる

今回は、日米比較を通じて、「営業生産性」というテーマについて考えてきました。

一つでも皆さまにお役立ていただける情報がありましたら幸いです。

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