Xpotentialでマーケティングを担当する清水です。
「セールスイネーブルメント」が注目される背景には、近年の営業環境の急速な変化が大きく影響しています。インターネットの普及やコロナ禍により、従来のアウトバウンド型の営業手法では効果が薄れ、顧客のニーズに迅速かつ的確に対応する必要性が高まっています。
このような状況で、営業活動の効率化や成果向上をサポートする「セールスイネーブルメント」の重要性が急速に増しています。セールスイネーブルメントがなぜ今必要とされているのか、その理由と背景について解説していきます。
■答えてくれた人
株式会社Xpotential 代表取締役社長 兼 CEO 山下 貴宏
法政大学卒業。日本ヒューレット・パッカード株式会社、株式会社船井総合研究所、マーサー・ジャパン株式会社、株式会社セールスフォース・ドットコム Sales Enablement本部長を経て、2019年R-Square & Companyを共同創業、2024年1月より現職
清水:前回のインタビュー(第1回:そもそも、セールスイネーブルメントって何ですか?)ありがとうございました!今回は、なぜ今イネーブルメントが注目されているのか教えてください!?
山下:マクロ的なところの話をすると、営業の従事者って減っているんですよ。
国内の労働者数は、2016 年で 6440 万人で、営業職(販売従事者)は約880万人だと言われています。労働者数の10%以上の人が営業職と仮定すると、営業職の就労人口は年々減少していて、2010年と比較すると約マイナス30万人というデータもあります。
清水:めちゃめちゃ減ってますね!なぜ減ってしまっているんでしょうか?
山下:そうですね、大きく減っています。 インターネットの普及により、お客様が自ら情報を集めやすくなったことと、コロナ禍の影響で営業のやり方が大きく変わりましたね。対面での営業が減少し、代わりに電話やオンラインでの商談が広く普及しました。さらに、「インサイドセールス」という、社外に出向かずに行う新しい営業スタイルが浸透し、これにより営業活動の効率化が大幅に進みました。また、飛び込み営業やテレアポといったアウトバウンド型の営業から、インバウンド型の営業スタイルも増えてきていますよね。
清水:時代がどんどん変わっていますね。
山下:そもそも、日本全体で就労人口が減っている現実もあるので、営業に限った話ではないかも知れないですけどね。一方で、会社は成長しなきゃいけないじゃないですか。
・営業が減っている(事実)
↓
・人が取りにくくなっている(事実)
↓
・でも、今の営業の人数で成長しなくてはならない(使命)
要は、企業はより一層生産性を上げなければいけないという状況なんです。
今のメンツで何かしら行動を起こして、現状打破をしなくてはいけない状況がまずあります。今の人数でなんとかしましょうという部門レベルの話がありつつ、会社自体が既存の事業領域だけでビジネスを継続できるかっていうと、競争も環境も激しいというわけです。
清水:となると、新しい領域……新事業とか新ソリューションを売って成長させようという流れになりませんか?
山下:そのとおり。それをしようとすると、営業は常に「新しい商材」を「正しく理解し続け」て「これまでにない売り方で売れるように」しなければならない。でも現実問題、なす術がないのが現実です。「新しい製品を作ったので、売ってきて。よろしく!」と丸投げされても、営業の本音は「いやいや、そんなにすぐ売れるようにはなりませんよ…」となってしまいますよね。
清水:結構お困りの営業が多い問題な気がします。誰にどんな解決をもたらすソリューションかを理解しないと、売れるはずもないですよね。
山下:DXがその典型例で、そもそも概念が広く、扱うテクノロジーも複雑です。経営陣が「今後はDX関連の売上比率を上げよう」と考えたとして、今まで物売りしかしてこなかった営業の人がいきなりソリューション売りができるかっていうと、すぐに売れるようになるわけがないんです。
限られた人数で、売り方を変えなきゃいけない。でも何をどうすればいいかわからない。こんなとき、企業の中の人はどんな発想になると思いますか?
清水:トレーニングだ、研修だ、という流れですかね。
山下:そうです。でも、それで売れるんだったら苦労しません。トレーニングは必要条件だけど、売れるようになる絶対条件ではない。それを支援するのがイネーブルメントという仕組みです。イネーブルメントを取り入れることでトレーニングや研修がより効果を発揮します。長くなりましたが、これがイネーブルメントが注目されている理由ですね。
清水:ちなみに、イネーブルメントがより効果を発揮する業界の傾向ってあるんですか?
山下:あります。売り方が属人化しやすい業界…とくにBtoBは、全般の傾向としてイネーブルメントがフィットしますね。IT業界はその代表です。商材が複雑で、ソリューションラインナップがたくさんあり、ノウハウが属人化しやすい企業、「どうやったら売れるのか?」が暗黙知化しやすい業種業態で効果が出やすいです。
清水:属人化に効く施策ですね!じゃあ、おまんじゅうを売るような会社にはイネーブルメントは不要ですかね?
山下:一般的なおまんじゅう屋さんには不要だと思います。おまんじゅう屋さんが訪問販売をしていて、営業をたくさん抱えていたりしたら、難易度も上がりますしイネーブルメントが効くかもしれませんが、一般的なおまんじゅう屋さんは売り物が明確だし、製品力で売れる会社はむしろECで製品をアピールして売る方が効果がありますよね。売り物が複雑で、ちゃんと営業が説明してお客さんの課題にフィットさせて、こういう風に使ってこう業績改善するんですっていうような無形商材でより効果を発揮します。営業がたくさんいて、売れる人と売れない人の差が激しく出るようなところだと、イネーブルメントはドンピシャですね。
清水:これはIT系に限ったことではないですよね?たとえば、今までレンタル事業のみだった会社が、これからはデジタル事業や何か違うことをするぞとか、そのようなケースも当てはまりますか?
山下:IT業界に限らないです。売るのに創意工夫が必要だったり、複雑なプロセスをきちんと進めなければいけないという、ノウハウが属人化しやすく暗黙化しやすいところにはすごくフィットします。
大型の機械設備や技術的に高度な製品を扱う製造業でいえば、製品の機能や使い方、業績向上への貢献を詳細に説明する必要があります。単純に価格や性能だけでなく、導入後の具体的な業務効率の改善やコスト削減の提案が求められることもあります。
このような業界だと、熟練した営業担当者が製品や顧客ニーズに精通し、個別に最適な提案を行うため担当者のスキルや経験に大きく依存しがちですよね。まさに属人化。
このようなところはイネーブルメント、効きますね。
清水:なるほど!社員が「イネーブルメントを取り入れた方がいいと思います」とボトムアップで提案するケースってありますか?それとも、トップダウンが一般的でしょうか?
山下:マネジメント層がイネーブルメントを知ると、「さっそく始めよう」とトップダウンでトントン拍子に進むことが多いです。じゃあ、現場の発案がないかというとそんなことはなくて、全然ありますよ。
ただ、全社的な仕組み化をするという話になると、やはり組織的な取り組みになります。一部門でやるよりも全体で取り組むほうが効果が高いのは事実ですね。
清水:少し横道に逸れるのですが、営業の新しいツールやスタイルは、だいたいアメリカ発じゃないですか。セールスネーブメントもアメリカで生まれたものですが、こういう新しい手法概念が次々と生まれてくる理由はあるのでしょうか??
山下:諸説ありますが、そもそもの流れでいくと2010年前後からクラウドサービスが普及しSFAのデータとかMA(マーケティングオートメーション)のデータとか、いわゆる活動顧客接点の活動にかかわるデータの活用が進みました。それを使ってどうしたらさらに売れるのかという話になるわけです。
ただ、SFAやMAのデータに「育成のデータ」があるわけではない。じゃあ営業パーソンにどう展開していけばいいのという議論になり、その解決策としてイネーブルメントのベンダーが2015年ぐらいに現れ始めたんです。
ナレッジ共有のツールであったり、営業向けの教育のツールであったり、そういうデータを使ってもっと売れるようにしていきましょうという全体のトレンドがあったんです。
清水:つまり、誰かがある日突然「セールスイネーブルメントという考えを思いついた」のではなくて、業界のいろんなうねりの中で生まれたわけですね。
山下:そう。欧米ってまず最初に「データ活用」という発想があるんです。SFAが定着しない…と言っている日系企業がいまだに存在しますが、データが溜まらないと次の改善策は見えないし、データを使って営業をどう強化していこうとかって話にもならないんです。この断絶が日本はまだ深いんです。
清水:昭和や平成の頃の日本って、気合だ、根性だ、みたいな話があって、そこから這い上がっていくのが美徳とされていた時代でしたけど、アメリカ人がそれを見たら、ひっくり返って驚くかもしれないですね。
山下:やばいな…って思う人が多いかもしれませんね(笑)。
ただ、データ活用主体のアメリカからすると根性論という無謀にみえるかもしれませんが、そこに合理性があるかどうかを重視すると思います。「量が質につながる」と捉えて活動量を一定担保することが案件の獲得につながり、そのための手段として飛び込みが有効とデータで証明されれば、アメリカ人だってやるでしょうね。
清水:それもデータ化しちゃうんですね。
山下:「データで◯◯と示されていて、▢▢が有効である。ゆえに、みんなで△△を頑張ろう」となれば、全然やるんですよね。成果が出るなら、やらされる方も納得感があるから一所懸命取り組みます。標準化とか、誰がやっても成果が出るように仕組み化しようっていうのが欧米人はとても強い。
思考停止で「上司がそう言ってるからやる」という組織が日本はまだ多くて、有効なのか、合理的なのかをデータで示さず人を動かそうとするのが問題なわけです。
清水:日本はいまだに、やっぱり属人化が多いですね。
冒頭の営業の従事者が減っている話で、人口減少、コロナ禍の影響、営業活動の効率化が原因とのことでしたが、「営業をしたくない人が増えた」のも一つの理由なような気がするんです。営業はかつて、多くの人が行う仕事だったと思いますが、今は違いますか?
山下:それはあるかもしれません。はっきりとしたデータは見たことがありませんが、営業は数字に追われて大変、という心理的に厳しい仕事のイメージがあります。
清水:最近は、人を採用するのが非常に難しいという声も聞きます。営業や販売の人材採用って特に難しいですよね。
山下:営業もそうだし、販売業も若手の人材が非常に少なく、採用が難しい状況です。
採用したい人は給与が高いし、そもそも候補者が見つからない。かつては数字を出せば報酬がたくさんもらえるというイメージがありましたが、実際にはノルマを達成してもインセンティブが出ない会社も多い。評価制度が明確でなく、頑張っても評価されない会社……特に日系企業はその傾向が強いかもしれません。
頑張れば報われる仕組みがあれば、多くの人がハッピーになれるでしょうね。昔はOJTのみで育成し、気合と根性で指導していました。そんな体制では、誰だって辞めたくなります。そのイメージが強すぎて、営業に対する敬遠が進んでいるのかもしれません。
清水:令和の営業革命、といったテーマで議論してみたいですね。
山下:いいですね。別の機会にディスカッションしましょう。
清水:よろしくお願いします!
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