かねてより、日本企業の人材投資額(OJT以外)は国内総生産(GDP)比でわずか0.1%と、1~2%を推移する主要欧米諸国と比較して極端に低く、さらに低下傾向にあるといわれてきました。
確かに、この調査結果を見ると、主要欧米諸国と比較し、日本は年々人材投資額が減少しているように見えます。ただ、注意しておきたいのは、この結果はあくまで「OJT以外の人材投資額」を示しているということです。
「生え抜き」という言葉があるように、長期雇用・人事ローテションを基盤とした日本企業の多くは、「ジェネラリスト」志向で慣行的に「OJT」中心に時間をかけて人を育成していくという傾向があります。OJTは、属人的になりやすく、ブラックボックス化するので、どうしても数値として表れにくいといえるでしょう。
一方、欧米諸国は「専門職」志向が強く、特定の職業において必要なスキルや知識を付与し、生産性向上につなげるという根強い文化があり、企業内育成においてもそうした文化は反映されています。例えば、営業組織においても、欧米では営業育成の専門部隊が「OFF-JT」を通じて、営業の専門職を育てるという考え方が一般的です。
ここで、営業育成に関して少し深堀してみましょう。
グローバル最大の人材育成協会ATD(The Association for Talent Development)が発表している「State of Sales Training」(2016, 2022)によると、営業一人あたりに欧米企業が投資するトレーニング費用は次のように記載されています。
欧米企業が営業育成にかける費用が、5年で約140%上昇していることがわかります。この数字、皆さまにはどのように映るでしょうか。
また、営業育成に対する投資は、別の角度から見ても増えているといえます。
海外の大手リサーチ機関であるCSO Insightsによる「Sales Enablement Report」によると、「調査対象企業のうち61%がセールスイネーブルメント専門組織、あるいはプログラムを設け営業パーソンの育成に取り組んでいる」という調査結果が示されています。
また、大手米国調査会社である、Gartner® によると、「セールスイネーブルメントの予算は、2027年までに現在の水準から平均50%増加する」(Gartner Expects Sales Enablement Budgets to Increase by 50% by 2027, February 15, 2023)という見通しも発表されています。
このように、欧米諸国では、「外部の専門家を有効活用しながらの人材育成は生産性向上につながる」という考え方が根底にあるため、「OJT以外の人材投資」が主流となってきたのです。
「新人営業の立ち上がりに時間がかかる」「エースに頼りきり」「OJTだけだとメンバーの成長や成果のばらつきを解消できない」「環境変化に柔軟に適応できない」「営業の離職率が下がらない」…。これらは、日本企業だけでなく、欧米企業でも挙げられることが多い営業課題です。
このような課題を解決すべく、前述のとおりイネーブルメントの取り組みが一層加速する欧米諸国ですが、日本企業はどうでしょうか?
私がイネーブルメントカンパニーの米国駐在員として、米国企業と日系企業の営業マネージャーや上層部の方々と日々お話する中で、興味深いことに気づきました。
それは、多くの米国企業では、営業育成を「投資」と捉えているのに対して、日系企業では「コスト」と捉えているケースが多いということです。
一般的に、「営業生産性=創出成果/コスト(投資)」と表現できますが、冒頭でもお伝えしたとおり、欧米諸国は「正しい投資をして成果を大きく」することで生産性向上を目指しているのに対し、日本企業は「コストを小さく」することで、生産性を上げようとする傾向が依然として強い印象を受けます。
その要因は複数あるかと思いますが、一つ代表的なものとして「人材育成の投資対効果がはっきりとわからない」ということが挙げられます。
実は、このような「人材育成の投資対効果がはっきりとわからない」という課題に対しても有効とされているのが「イネーブルメント」というアプローチであり、企業が取り組む理由の一つとなっているのです。
イネーブルメントは、「目指すべき営業成果」を起点として、トレーニングやコーチング、ツール・ナレッジを一気通貫で提供し、「成果起点の育成」を統合的に支援します。加えて、SFA/CRMなどの営業データと連動させることで、提供した育成施策が実際に営業成果につながっているかどうかの効果検証が可能となります。
経営視点でいうと、育成という「投資」に対して期待効果である「成果」が定量的に見えるようになることで、どのような育成施策に投資すべきかの判断が明確になります。このように、「営業成果と育成のPDCAサイクル」回しながら、ビジネスの持続的な成長を実現させることがイネーブルメントの大きな特徴です。
OJTや集合研修がこれまで主流の育成手法だった日本企業にとって、「リモートワークが浸透し、部下の現状や課題、成長度合いが今まで以上に掴めない」「これまでの育成施策では中長期的な成果創出が見込めない」という課題は、近年のホットトピックです。
このような環境変化に対応すべく、日本でもイネーブルメントに取り組む企業が急激に増えていますが、最後に、イネーブルメントの具体的アプローチについてご紹介します。
まず、これがイネーブルメントの起点です。「売上最大化」や「シェア向上」、あるいは「新規獲得」「既存拡大」などがこれに当たり、自組織の戦略と合致させ設定します。
つぎに、設定したゴール(成果)につながる「行動」は何なのか、そういった行動がとれるようになるために必要な「知識」や「スキル」は何なのかを体系的に整理します。
「あるべき姿」が明確になったら、SFA/CRMなどの「営業データ」、アセスメント結果や育成状況などの「育成データ」に加え、現場ヒアリングなど定性情報も織り交ぜながら、現状どこに課題があるのか、強化すべきポイントはどこなのかを分析し、育成テーマを特定します。個人のテーマ、またチームや部単位でのテーマの特定も可能になるでしょう。ポイントは「感覚」ではなく、データの裏付けをもってテーマを特定しているという点です。
育成テーマが特定できても、提供コンテンツが現場の方々から「役に立たない」と感じられてしまっては意味がありません。おすすめは、「営業パーソンから実例を集めて体系化してコンテンツにする」ということです。「現場感」があり「実践の場に使える」コンテンツの作成と提供を意識することが肝要です。
イネーブルメントでは、施策を「やりっぱなし」にしません。データドリブンであるからこそ、施策の効果検証が可能です。たとえば、育成施策で効果が出ない場合には、その施策をいきなり否定するのではなく、まずは学習状況(コンテンツのマッチ度など)はどうだったか、現場で実践したかなどを見ていきます。Learn(学習)→Apply(適応)→Results(成果)の過程でどこで止まってしまったかをデータとともに見ていくことで正しい改善をかけながら、育成のPDCAサイクルを回していきます。
このように、イネーブルメントでは、「どこにどのような育成投資をすれば成果につながるのか」という育成の投資対効果の検証が可能となることで、効率的かつ効果的な営業育成が実現するのです。
欧米企業では、イネーブルメントの加速と同時にツールの導入も進んでいます。弊社でも「営業組織と人の持続的な成長」の一助となるべく、日々営業組織の課題と向き合いながらイネーブルメントの研究を重ねておりますので、セールスイネーブルメントの構築・運用やツール導入にご興味がございましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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