部下の成果創出と成長を促す1on1ミーティング

代表取締役 / 共同創業者 岡安 建司

部下の成果創出と成長を促す1on1ミーティング

先進的なIT企業が集まるシリコンバレー発祥の1on1。「部下の育成やモチベーション向上」を目的におこなう上司と部下との定期的な個別ミーティングのことをいい、米国では多くの企業で習慣化されている取り組みです。日本でも2012年にヤフー株式会社で導入され注目を集めたことは記憶に新しいところかもしれません。

1.近年再注目されている1on1ミーティング

日本で話題になった当時も、年功序列制度や終身雇用制度の崩壊による上司・部下の関係性の変化や、時短勤務社員や社会的背景の異なる社員とのコミュニケーション円滑化などといったダイバーシティへの対応が求められる中、成長企業を中心に導入が進みましたが、コロナ禍による環境変化で昨今再度注目が高まっています。

在宅勤務や時差通勤の推奨、フレックスタイム制度の導入などといった就労環境の著しい変化により、部下について“見えない”ことが増えたといった声も聞くようになりました。

また、デジタル化の急速な進展は、情報共有の量や速さといった点において多大な効率化に貢献している一方、膨大に流れてくる情報の中で日々の業務をおこなっていると、全ての情報がそこに集まっていると錯覚してしまったり、可視化された情報のみで重要な意思決定をおこなってしまうなどといったリスクも孕んでいます。
部下の状況が“見えない”だけでなく“正しく把握できない”ことは、マネジメントをする上で障壁となっているのです。

2.1on1がもたらす価値

1on1は言い換えれば、上司と部下の対話です。直接的にコミュニケーションをとることで、相手の考えやその背景、行動に至るまでのプロセスや心理的状況など、単なる数字や文字では理解しきれない情報を得られる機会も多く、それが相互の意思決定や次の行動に大きな影響を及ぼすことも多々あるでしょう。

“人と組織の持続的な成長”を促すイネーブルメントにおいて、「データの可視化」は必須ですが、1on1もまた重要な役割を担っています。弊社でも多くの支援をおこなっていますが、1on1を導入した企業の方々からは次のような声が届いています。

■メンバー
「これまで上司とのミーティングでタスクの進捗報告や意思決定を仰ぐことはありましたが、1on1では上司の考えや思いまでじっくり聞くことができ、結果だけでなく、自分のやり方や考え方が間違っていなかったのだと安心できました」

■課長
「普段から部長と話す機会は多い方でしたが、目標や成果についてだけではなく、改めて中長期的な視点で見たときのお互いの“思い”や“考え”をすり合わせる時間を持つことの重要さを理解しました」

3.陥りがちなよくない1on1

1on1を導入する企業が増えてきている一方で、その場をうまく活用しきれていない事例も散見されます。ここではよくある失敗例を2つほどご紹介します。

目的が明確ではない1on1

とりあえず1on1ミーティングを設定したけれど、目的や落とし所を定めずに臨んだ結果、何のために実施しているのかがよくわからなくなってしまうといった状況です。
上から言われてなんとなく1on1に取り組んでしまっていたり、そうでなくても上司としては部下と定期的な接点をもつこと自体が目的と捉えて設定しているのかもしれませんが、部下としては、「せっかくの上司とのコミュニケーションの機会なのに何も持ち帰れなかった」「忙しい上司の貴重な時間を活かせなかった」と、逆に1on1ミーティング自体に課題を感じてしまうといったケースも少なくありません。


弊社が支援している企業の営業組織もそうですが、管理職がマネジメントだけではなくプレーヤーとしても重要な役割を担い、大きな責任と共に多忙を極めているといった組織は多いと思います。意欲的かつ責任感の強い部下ほど、その上司の状況を認識し、多忙な上司の時間を使う際には、“何らか持ち帰り、自身の成長に活かさなければならない”という心持ちで1on1ミーティングに臨んでいます。もしそのような状況で、目的が曖昧な1on1ミーティングを設定してしまった場合、部下が混乱してしまう可能性が高いでしょう。

部下に任せすぎている1on1

部下の自主性や主体性を伸ばそうと部下に1on1の内容を任せっきりにしてしまい、単なる業務報告や進捗確認の場になってしまっている状況です。
部下によっては、普段の業務ミーティングと何が違うのかがわからず、わざわざ1on1の時間を取る意義を見出せないという声を聞くこともあります。
また、そのような場合上司としても、忙しい中時間を割くわりに思うような効果を実感できず、いつもの業務確認ミーティングで十分と、いつの間にか1on1が実施されなくなってしまうのです。

他社の効果を踏まえて、部下の主体性を活かす場として組織全体に1on1を展開したものの、実施方法を現場に任せっきりにしてしまったために、部下の反応や成長に大きくばらつきが出てしまい効果が得られなかったという事例も存在します。

4.効果的な1on1とは?

1on1は適切におこなえば有効な育成施策となりえますが、方法を誤ると、上司・部下の関係性悪化や生産性の低下につながるリスクもあります。実際にどのような点に気をつけていけばいいのでしょうか。

「1on1=傾聴」の行き過ぎは弊害に “双方向の”コミュニケーションが鍵

1on1には“目的設定”、“対話”、“質問”などさまざまなポイントがありますが、その中でも重要なアプローチの一つに“傾聴”があります。上司から部下への一方的なコミュニケーションになりがちな評価面談とは異なり、「部下の成長をサポートする」ことに主眼を置く1on1では、部下の考えや思いを“傾聴する”ことが重視されるようになりました。
1on1において傾聴は重要な要素の一つですが、“傾聴”自体が目的化してしまうと、部下の考えや情報のみを根拠に次の判断や意思決定を進めることになってしまい、本来得たい成果や成長につながらない可能性もあります。1on1で重要なのは“双方向の”コミュニケーションであり、上司の知見も加えながら、現状以上のプラスアルファの成長や成果を目指していく必要があります。

例えば、部下が知らない事業戦略や組織方針の背景情報を伝えること、上司の経験や過去の成功事例を踏まえ対応方針を共に考えること、実行の意思決定や判断した論拠を伝えることなど、部下が把握していない上司の責務や経験をもって伝えられる情報により、新たな気付きを得ることができ、更なる成長やこれまで獲得できなかった成果創出などの可能性も広がります。

1on1を単なるコミュニケーション不足解消の場に留めるのではなく、部下のさらなる能力向上や成果創出に貢献する場として活用いくためにも、“傾聴”だけではなく、上司の考えを“伝達”していくことも念頭に置いて双方向のコミュニケーションとなるよう努めていきましょう。

“傾聴”と“伝達”の使い分けの重要性

では、どのように“傾聴”と“伝達”をおこなえば良いのでしょうか。異なる2人の部下の状況で考えてみましょう。

一つ目は、部下がその職務における経験や知見が多く、組織方針への理解も深い場合。例えば、ベテランや成果を上げているメンバーなどのケースです。このような場合、改めて業務のやり方や組織方針を“伝達”することよりも、部下の意見や考えを引き出し、上司がその理解を深める“傾聴”により、部下自身の意見や考えを後押しすることに注力した方がいいでしょう。逆に業務のやり方や組織方針を“伝達”しすぎてしまうと、押し付けや二度手間などの印象を部下に与えてしまったり、自分は信頼されていないのではないかと部下の自信を喪失してしまうかもしれません。


一方で、部下がその職務における経験や知見が少なく、組織方針への理解も浅い場合。例えば、新人・中途社員や新しい業務に異動して間もないメンバーなどのケースではどうでしょうか。このような場合、上司が部下の考えや意見を引き出すよりも、組織方針の背景や業務のやり方などを丁寧に“伝達”する方がいいでしょう。逆に部下の考えや意見を“傾聴”しようとしても部下自身に深い考えや意見がない場合もあり、意見を求められることをプレッシャーに感じてしまったり、リードしてくれない上司に対し頼りないと感じてしまう可能性もあります。

このように、“傾聴”と“伝達”は部下の状況によって使い分けることでその効果を発揮します。逆にどちらか一方だけでコミュニケーションをおこなっている場合には、良い方向、悪い方向のどちらに転ぶか分かりません。まずは部下の置かれている状況を正しく把握する必要があります。

傾聴と伝達の使い分け

部下の状況を把握する

1on1は奥深く、多くのポイントが存在しますが、ここでは弊社が営業組織で1on1の実施を支援する場合、「部下の状況を的確に把握し成長を促進させる」ために推奨している2つのアプローチについてご紹介します。

商談を前進させるディールコーチング

営業にとって商談を前進させることが成果創出に近づく第一歩になりますが、定期的におこなわれる1on1において、営業プロセス上の課題一つひとつをクリアにしていくことを目的としています。

商談データや部下の育成データ、自社視点ではない顧客視点での問いなどから、部下の商談はどこで止まっているのか、なぜ止まっているのか、商談を前進させるにはどのようなコミュニケーションが必要かなど、部下の状況を把握した上で、適切な支援をおこないます。

次の図では1on1が特に求められる新人や中途社員によく見られる、4つのつまずきやすいポイントを記していますのでディールコーチングを取り入れる際の参考としてみてください。

営業における4つの壁

部下のスキル向上やキャリア支援のためのピープルコーチング

部下のスキル向上やキャリア支援を目的としています。
営業活動やチーム運営において求められるスキルの向上や、部下自身のキャリアプランをどう考えていくかなど、部下がどのように成長したいのか、チャレンジしていきたいのかなどを把握した上で、上司としての支援をおこないます。

弊社が上司のピープルコーチングを支援する際、部下の行動変容に対する心理的な状況の把握を推奨するケースがあります。成長するためには、まずは部下自身が行動変容する意欲をどの程度もっているかを見極める必要があるという前提で、部下の行動変容に対する心理的状況を4つのステップで整理しています。

部下は将来自身がなりたい姿や求められている役割をどの程度認識しているのか(気づきの醸成)
なりたい姿や求められる役割へ変わることで自身にどのようなメリットがあるのか(期待感の醸成)
なりたい姿や求められる役割へ変われなかった場合、自身にどのようなデメリット(機会損失)があるのか(危機感の醸成)
なりたい姿や求められる役割へ変わることに周囲のサポートや認知があるのか(安心感の醸成)

行動変容に至る心理的変化の4ステップ

部下が成長したい姿や求められている役割に対して、どのような認識なのかを確認した上で、上司として適切な支援をおこなうようにしましょう。

育成を促す営業コーチングとは | Enablement Insight >>

5.1on1ミーティングに求められる内容は変化していく

今後も組織を取り巻く環境は刻々と変化していきます。外部環境の変化、戦略目標の変更、組織リソースの増減、自社のサービスの多様化、求められる役割の変更など、昨今では変化のサイクルがますます速くなり、想定していなかった事態も起こりえます。

弊社では、新しい営業人材育成の考え方としてイネーブルメントの導入支援をおこなっていますが、事業環境の激しい変化に対しどう人材が変わっていくべきか、その行動変容を実現するためにはどのような支援が必要かといったご相談を受ける機会が日に日に増えています。

イネーブルメントにおいても、部下の能力向上や成果創出に貢献する重要な“育成手段”の一つとして1on1は位置付けられており、不確実性の時代にこそ企業の持続的な成長に貢献する有効なマネジメントツールとしてその存在感を増していくのではないかと考えます。

適切な1on1は上司と部下のコミュニケーションを促進するだけでなく、部下の成長、ひいては組織の持続的な成長にも大きな影響を与えます。皆さまの組織に最適な1on1についてご検討いただく際の一助になれば幸いです。

営業組織・人を育てる!一歩先のセールスイネーブルメント |お役立ち情報 >>

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