営業人材育成の最新理論から紐解く強い営業組織の作り方

代表取締役社長 / CEO 山下 貴宏

1.激しい環境変化と求められる営業スタイル変革

パンデミックを経て、今多くの営業組織、営業パーソンが激しい環境変化の中に身を置いています。デジタルへの移行や組織体制、営業プロセスそのものの見直しなど、営業改革に舵を切る必要性に迫られつつ、最適解を見いだせず悩まれる企業も多かったのではないでしょうか。

そのような状況下、パンデミックがもたらした外部環境変化による影響の一つとして次のような調査結果が出ています。

『HubSpot年次調査:日本の営業に関する意識・実態調査2021』では、パンデミック環境下において「売り手(営業パーソン)と買い手(顧客)が考える“好ましい営業スタイル”」の意識ギャップが広がったことが取り上げられています。売り手の多数が「訪問営業が好ましい」と考えている一方、買い手は「リモート営業が好ましい」と考える人(38.5%)が「訪問型営業が好ましい」と考える人(35.0%)を上回り、顧客の意識変化に営業が気づけていないという事実が明らかとなったのです。
(出典:https://www.hubspot.jp/company-news/stateofsales-20210208

パンデミック前は対面での商談がメインだったこともあり、購買プロセスの早期から顧客に関わり信頼関係を醸成しながら商談を進めていくスタイルが一般的でした。ところが、オンラインでのコミュニケーションが一般的となった今、顧客が求めるコミュニケーションスタイルへの移行は急務といえます。

また、コミュニケーションスタイルの変化だけでなく、「顧客の意思決定プロセスの変化」への適応も求められています。パンデミック以前より、「顧客の6~7割は営業とコンタクトをとる前にWeb上の情報収集でかなりの知識を有している」といわれてきましたが、その勢いは日々加速しています。「顧客と会いにくくなった」だけでなく、会えたとしても「営業への期待値がこれまでと異なる」ため今までのやり方が通用しなくなってきているのです。

このような課題を早急に解決すべく、多くの営業組織が“営業人材育成”について、見直しを図っています。営業組織にとって、パンデミックは外部環境だけでなく内部環境にも大きな影響を与えたといえるでしょう。

2.営業組織が抱える人材育成課題

営業スタイル変革を推進する上で鍵となる“人材育成”ですが、営業組織は育成においても次のように新たな課題を突きつけられています。

  • オンライン環境下では、上司・部下・同僚の動きが見えにくく、意識的に行わないとナレッジシェアや事例共有などの情報連携が間に合わなくなった
  • オンライン環境下のOJTでは、部下の能力や課題、成長度合いなどの把握が対面時と比較すると難しくなった
  • 顧客の意思決定プロセスの変化に対応した新たなスキルセットの獲得が急務となったが手が回らない、どこから手をつけるべきかわからない

結果として、新人・中途メンバーの立ち上がりに今まで以上に時間がかかってしまったり、既存の営業組織においても能力・成果のばらつきを解消できない、思うように成果に繋がらないなどといった課題が次々と出現するようになってきたのです。

環境変化による営業責任者の懸念

3.“セールスイネーブルメント”と“営業人材育成”

このような新たな育成課題に対してどのようなアプローチが有効なのでしょうか。

その問いに真っ向から向き合うのが“セールスイネーブルメント”です。
「セールスイネーブルメントは最近流行りのバズワードで、結局のところ営業トレーニングである」と誤解されるケースもありますが、ここでは「営業組織が継続的に営業成果を出し続けるための仕組みを構築すること」とご認識いただけると嬉しいです。

セールスイネーブルメントの大目的は「営業組織が成果を創出し続けるようにすること」、そして中目的はそのために「組織や営業の行動を変えること」です。これらの目的を達成するために、手段として「ITツールやデータの活用」や「育成」が存在します。

セールスイネーブルメントのアウトプットとプロセス

セールスイネーブルメントにおける人材育成では、次のようなことが実現します。

  • 営業プロセス、スキル、ナレッジを体系的に整理することで、営業パーソン個々人の活動実態に合った育成施策を提供することができる
  • データ活用することで“営業成果”と“育成施策”のつながりが可視化され、最適な施策の選定や改善を行える
  • 部下の成果だけでなく、活動状況やスキルギャップ、成長度合いが可視化され、営業マネージャーの部下育成の精度が上がる
  • 結果として、ハイパフォーマーに依存しない、組織全体の底上げが可能となる

トレーニングはあくまでも一手段にすぎません。

組織が求める営業成果を起点に育成施策を提供し、その結果をデータによって検証しながら改善のPDCAサイクルを回していく社内の仕組みそのものがセールスイネーブルメントなのです。

4.世界最大の人材育成協会ATDの理論から紐解く”成果起点の営業人材育成”

「営業組織が成果を創出し続ける」ために、「組織や営業パーソンの行動を変える」必要があり、その手段として「ITツールやデータの活用」「育成」が存在するとお伝えしてきました。

ここで大切なのは、「これらを一気通貫で有機的に組み合わせる」という点です。下の図は私たちが考えるイネーブルメントの理想形です。


イネーブルメントの理想形

ここで、世界最大の人材育成協会ATD(ASSOCIATION FOR TALENT DEVELOPMENT) の掲げるセールスイネーブルメントモデルについてもご紹介したいと思います。

ATDは1943年に米国で設立され、その後急速に拡大、現在では世界に120以上の拠点を持ち、今までに10万人以上のプロフェッショナル、数々のリーディングカンパニーに対して様々な育成プログラムを提供してきました。

私たちは“セールスイネーブルメントのプロフェッショナル”として、日々多くの企業のイネーブルメント導入支援に携わっておりますが、「日本のイネーブラーに必要な知識・スキルに加えグローバルの最新事例をご提供できる場を増やしたい」との想いから、今年ATDのReza Sisakhti博士(セールスイネーブルメント領域の専門家)を招き、「成果起点の実践的な育成体系の作り方」をお伝えする講座を日本で初主催いたしました。

講座では、セールスイネーブルメントの最新理論から実践的な育成体系の作り方にいたるまで、事例を交えながら解説いただきましたが、Reza氏は「人の行動を変えるためには、“人材育成” “採用” “ITテクノロジー” “評価・報酬制度” “セールスコーチング”の5つのコンポーネントを整備することが肝要である」と説き、私たちのコンセプトと非常に近しい考え方を示されていました。

Reza博士の開発したイネーブルメントモデル

(出典:Reza博士の開発したイネーブルメントモデル / Association for Talent Development)

5.世界最先端の営業組織の作り方“セールスイネーブルメント”の始め方

上の図表のように整備したいコンポーネントは複数ありますが、実際、これらを網羅的に整備するのは非常に難しいというのが現実ではないでしょうか。

では、この5つのコンポーネントのうち、どこから始めるのが現実的でしょうか?

みなさまが置かれている状況や企業文化によって解は変わってくるかもしれませんが、私たちがお勧めしているのは、「成果につながる期待行動を改めて設定し、そこに絞った育成プログラムをまずスモールスタートしてみる」ということです。

スタートポイントは、特定の成果をまず定めることです。
それは、売上向上かもしれませんし、シェアの拡大かもしれません。あるいは、新規獲得数かもしれません。

その後、これらの成果を確実に出すために、必要な行動が何なのかを設定します。
例えば、「顧客視点での課題仮説構築」かもしれませんし「複数商材の総合提案」などが必要になってくる場合もあるでしょう。

そして次に、「そういった行動がとれるようになるためにはどのような知識やスキルが必要なのか」を整理していきます。

育成の起点から成果

(令和2年8月7日(2020.8.7)「営業人材開発支援システム、営業人材開発支援方法、および営業人材開発支援プログラム」の名称で特許取得済みです。特許第6746184号(P6746184)

そして整理した知識やスキルに対応したトレーニングや研修を提供し、本当に「知識やスキル」を習得できたか、営業現場では実際にそれらのスキルを使い「行動」に変化が出たのか、最終的に求めていた「成果」に繋がったのかをデータに基づき定量的に検証します。

このように、営業成果を起点とした育成施策を提供し、結果的に営業成果に至ったかを検証するといった営業人材育成のPDCAサイクルが回っていくことで、持続的に成果を創出し続けることができる強い営業組織が作られるのです。

6.イネーブラーに聞く“成果を出し続ける営業組織・営業人材開発”においてもっとも重要なこと

4.世界最大の人材育成協会ATDの理論から紐解く“成果起点の営業人材育成” 」パートにてご紹介いたしましたATDイネーブルメントプログラムには、まさに今イネーブルメント推進中であったりこれから強化していく企業のイネーブルメントご担当者に多くご参加いただきました。

これまでは現地米国開催かつ集合形式、英語のみで提供されていたプログラムを、日本語かつオンラインで受講できるよう企画し開催が実現した貴重な機会ですので、ご参加者の声も含めここでぜひご紹介できればと思います。

<当日の進め方>

スモールグループに分かれ、受講生(営業部門長、営業マネージャー、イネーブラーなど)が実際営業育成プログラムを作り上げる上で直面している課題やケースを基に、次のような流れでアウトプットしました。

①成果(Business Requirement)の再定義
②成果(Performance Requirement)を出すために必要な特定行動の定義
③スキルと知識との紐づけ
④実行・導入プランの立案
⑤成果測定のプランニング

自分たちの「直面している活きた素材」を扱いながら、成果・行動・知識/スキルの繋げ方や営業育成プログラムのPDCAサイクルを設計するために必要な「実践で使える知識やスキル」を、グループワークを通じて身に着けていただきました。

<参加特典>

本講座ではイネーブラーを現場で支えるための理論・ツール・テンプレート・過去事例などが余すことなく講師からシェアされ、一定の要件を満たすと、ATDから修了書(Certificate of Completion)が付与されます。

<ご受講者の声>

ご参加いただいたイネーブラーのみなさまに、「“成果を出し続ける営業組織・営業人材開発”においてもっとも重要なこととは」というテーマでご受講後ご意見をお伺いしましたので、公開可能な範囲でご紹介いたします。

  • ビジネスの目的を明確にし、それと整合する営業組織・人材育成プランを開発することと理解しました
  • 営業に求められるモノ・コトをイネーブラーがタイムリーに把握し、それを営業に提供し続ける事。とにかく継続だと思っております
  • 正しい評価と改善
  • 営業と同様、目の前の人が「必要なものを、必要なときに、必要なだけ」提供する、ことだと思います
  • 営業のマネージャーや組織に寄り添い、彼らの気持ちを理解し、彼らの課題の特定をし続けること。そうすれば自ずと解決策はすぐに出てくると思う
  • Business requirementの定義を起点にプログラムを構築すること

一見壮大で難解に見えるセールスイネーブルメント。その第一歩を踏み出し、トライアル・アンド・エラーを繰り返しながら着実に成功事例を作り続けているイネーブラーのみなさまが人材育成において日頃から意識されているのは、“目的意識”や“現場への寄り添い”、そして“継続すること”でした。

これからイネーブルメントを始めようと思われている方、取り組み中でなかなか成果が出ず悩まれている方、既に最先端を行きそれでもさらなる成長を目指す方のご参考となれば幸いです。

ATDによるSales Enablement Certificateプログラムとは>>

 

7.セールスイネーブルメントと営業人材育成の取組み事例

「人を育てること、組織を育てることには時間がかかりますが、それが成果達成の為のもっとも近道で最大の戦略だと信じていました」

セールスイネーブルメントを導入することにより“営業レボリューション”=営業組織の大改革に取り組むCCCマーケティング株式会社マーケティングソリューションDiv. ゼネラルマネージャーの島田正明さんのお言葉です。イネーブルメント導入の経緯や成功の秘訣、人材育成への拘りや今後さらに営業組織を強くするための展望などをお伺いしています。

無形商材営業・ITツール未導入のスタートでも前年比125%!CCCマーケティングの営業大改革×セールス・イネーブルメント成功の秘訣>>

 

まとめ

ここまでお読みいただきありがとうございます。

外部環境、内部環境の変化にともない、営業組織には新たな育成課題への対応が急務となっていること、その課題を解決するためのアプローチ方法“セールスイネーブルメント”について概要や取り組み方、事例をご紹介いたしました。

不確実性の時代においても成果を創出し続けることができる強い営業組織開発・営業人材育成の仕組み“セールスイネーブルメント”をスモールスタートしてみませんか。

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