厳しい競争環境の中で、人的資本は、従来の物的資本や財務資本を超える重要な経営資源となりつつあります。人的資本経営とは「企業の成長と持続可能な発展を支えるために、社員一人ひとりのスキルや知識、経験を戦略的に活用し、組織全体の競争力を高める」アプローチです。
本記事では、人的資本経営の定義や背景から、そのメリットとデメリット、さらに具体的な導入ステップを解説します。
人的資本経営とは?
定義と背景
人的資本経営とは、従業員一人ひとりのスキルや知識、経験、創造性といった「人的資本」を、企業の持続的な成長と競争力の強化に役立てる経営手法です。従来、企業の資本といえば、財務資本や物的資本が中心でしたが、知識集約型の産業やデジタルトランスフォーメーション(DX)の進展に伴い、企業は「人」による価値創造の重要性を認識するようになりました。
グローバル化によって競争が激化する中で、単に資本力や技術だけでは他社との差別化が難しくなっていることが背景です。人材の持つ能力や知識をどのように最大化し、企業全体の競争力を高めるかが経営の鍵となっています。
資本としての「人」の重要性
従来の経営では、企業は主に物的資本(機械や設備)や財務資本(資金)に依存していました。しかし、現代のビジネス環境では、競争優位を築くための最大の資産は「人」であるという認識が広がっています。テクノロジーが進化し、自動化が進む中でも、最終的にイノベーションを生み出し、企業に持続的な価値をもたらすのは人材の力です。
人的資本は単なる労働力ではなく、企業の成長や競争力の源泉となるものです。高度なスキルを持った人材は、商品やサービスの質を向上させるだけでなく、顧客との関係を強化し、新しいビジネスチャンスを創出します。社員一人ひとりの知識や経験は、企業にとって取り替えのきかない資産です。
経営戦略と人的資本の関連性
経営戦略の成功には、人的資本が果たす役割が大きく、企業の長期的な成長を支える基盤となります。経営戦略とは、企業が競争優位を確保し、持続的な成長を実現するための方針や計画を意味しますが、この戦略が効果を発揮するためには、人材をどのように活用するかが重要です。
人的資本が経営戦略と結びつく際、企業の目標達成に向けて、社員一人ひとりのスキル、知識、経験が最大限に活用されることが必要です。
また、経営戦略が多様化し、特定の分野での深い専門知識や、グローバル市場に対応できる多言語・多文化に精通した人材が必要となる中、人的資本は経営戦略の成否を左右する要素です。
他の経営資源との違い
人的資本は、物的資本や財務資本といった他の経営資源と比べて異なる特徴を持っています。
まず、物的資本(工場、機械、設備など)は、一定のコストをかけて取得すれば、その性能や価値は一定の水準で維持されます。しかし、人的資本は学び続けて成長する必要があります。従業員のスキルや知識は時間とともに変化し、企業がこれに投資することで、より高い付加価値を生み出す可能性を秘めています。
次に、財務資本は、直接的な投資や購入によって容易に増減させることができ、即座に企業の資産として活用できます。一方で、人的資本は長期的な投資が必要です。人材の採用、育成、エンゲージメントの向上には時間とコストがかかり、短期的に成果を得るのは難しい場合もあります。
物的資本や財務資本が企業にとって定量的かつ明確な数値で管理しやすいのに対し、人的資本は価値を測るのが難しく、定性的な要素が関与します。能力やモチベーション、企業文化へのフィット感など、人的資本には数字に表れにくい重要な側面が含まれます。
人的資本経営が注目されている理由
競争の激化(テクノロジーの進化とDX化)
新たなテクノロジーやデジタルツールは、業務プロセスを効率化し、新しい市場機会を生み出す一方で、競合にとっても容易に利用できるため、単純な技術的優位性だけでは競争力を維持できなくなっています。
自動化やAI、データ分析が発展する中、従業員のスキルセットにも高度な専門知識や問題解決能力、創造力が求められるようになりました。単純作業が機械に代替される一方で、戦略的思考や創造性を発揮できる人材が企業の競争優位を築く要となります。
DXの進行により、企業はデータドリブンな経営を進める必要がありますが、そのデータを適切に解釈し、ビジネスに活かせるのも人的資本です。デジタルツールやAIは情報を提供するだけで、それをどのように使って企業の成長につなげるかは人材の力次第です。
社会的なトレンド(働き方改革の推進とダイバーシティ&インクルージョン)
働き方改革やダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の社会的トレンドは、企業の人的資本経営が注目される一因となっています。
働き方改革は、日本をはじめ多くの国で推進されており、長時間労働の是正や柔軟な働き方の導入が進められています。リモートワークやフレックスタイム制、ワークライフバランスを重視した労働環境の整備は、従業員の生産性を高めるだけでなく、社員一人ひとりが自分の能力を最大限発揮できる環境を提供します。
また、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)は、異なるバックグラウンドを持つ人々が共に働き、全員が公平に機会を得られる環境を作ることが目的です。性別、年齢、国籍、文化、ライフスタイルの多様性を尊重することで、豊かなアイデアや視点を得ることができます。
社会的責任とサステナビリティの意識向上(CSRとESG)
企業の社会的責任(CSR: Corporate Social Responsibility)や環境・社会・ガバナンス(ESG: Environmental, Social, Governance)への取り組みが重視されるようになったことで、人的資本経営も重要視されるようになりました。
CSRの視点から見ると、企業は利益追求だけでなく、社会や環境に対する責任を果たすことが期待されています。従業員の働きやすさや成長機会を提供することは、CSRの一環として重要視されており、企業の信頼性や評判を高める要素となっています。
一方、ESGは、投資家や株主が企業を評価する基準で、環境・社会・ガバナンスの3つの観点から企業の持続可能性が測られます。「S」(社会)は、特に従業員の福祉や働きがい、ダイバーシティやインクルージョンなどが含まれ、人的資本の重要性が強調されています。
人的資本経営の目的は「企業価値を向上させる」こと
人的資本経営の最終的な目的は、「企業価値の向上」です。単に財務的な利益を追求するだけでなく、企業全体の持続的な成長と社会における価値を高めるための戦略的なアプローチです。
人的資本経営は「競争力を高める」ことに直結します。高度な専門知識や創造力を持つ人材を育成し、その能力を最大限に活かすことで、他社との差別化が図れます。
人的資本の適切な管理は、企業の「ブランド価値の向上」にもつながります。社員が企業のビジョンに共感し、自らの成長と会社の成長が一致していると感じることで、企業の評判は高まり、優秀な人材を引きつけることが可能となります。
人的資本経営のメリット
競争力の向上
優れた人材は革新的なアイデアを生み出し、業務プロセスの改善や新しいビジネス機会の発見に貢献します。例えば、最新の技術や市場トレンドに精通した社員は、他社に先駆けて革新を進め、企業の競争優位性を保つための原動力となりますし、スキルや知識が組織全体に共有されることで、企業全体のパフォーマンスも向上します。
企業が競争力を高めるもう一つの要素は、社員のモチベーション向上です。適切な人材育成やキャリア開発の機会を提供することで、社員は自分が会社の成功に直接関与していると感じ、より積極的に貢献しようとする意欲が高まります。
持続可能な成長の実現
持続可能な成長とは、短期的な利益の追求ではなく、長期的な視点で企業が安定して発展し続けることを意味します。個々の社員がスキルアップし、知識を深めることは、企業全体の競争力を強化し、変化の激しい市場環境にも柔軟に対応できる力をもたらします。
持続可能な成長の実現には、企業内のイノベーションが欠かせません。人的資本経営を通じて、従業員の多様な視点やアイデアが尊重されることで、革新的な発想が生まれやすい環境が整います。
社員エンゲージメントの向上
社員エンゲージメントとは、従業員が自社に対して感じる愛着や貢献意欲、仕事への熱意を意味します。エンゲージメントが高い社員は、自らの役割を超えて企業の成功に積極的に貢献しようとし、その結果、企業の生産性や業績にプラスの影響をもたらします。
社員エンゲージメントの向上は、まず従業員一人ひとりの成長機会を提供することにあります。従業員が自身のスキルやキャリアを成長させるための環境が整っていると感じると、自分の努力が企業の目標達成に直接結びついているという実感を得やすくなります。例えば、研修や教育プログラム、明確なキャリアパスを提供することで、社員は自らの成長を企業の成長とリンクさせるようになります。
生産性の向上
生産性の向上とは、限られたリソースを効率的に活用して、より多くの成果を生み出すことを指します。
従業員が最新の技術や知識を身につけ、自分の役割において効率的に業務を遂行できるようになると、作業のスピードや正確性が向上し、結果として生産性が向上します。各従業員のスキルセットや特性を把握し、最適なポジションに配置することが重要です。
イノベーションの促進
イノベーションとは、新しいアイデアや技術、プロセスを通じて、従来の価値を超える成果を生み出すことです。
異なるバックグラウンドや経験、スキルを尊重し、それらを最大限に活用することで、組織全体に新しい発想やアイデアをもたらします。多様性のある組織では、従来の固定観念にとらわれない発想が生まれやすく、これが新しい商品やサービス、ビジネスモデルの開発に繋がります。
従業員に対して研修や教育プログラムを通じてスキルアップの機会を提供することで、社員は最新の技術や知識を習得し、業務の効率化や新しいアプローチを試みる能力を高めます。失敗を恐れず新しい挑戦を行える環境も整えることで自由な発想や試行錯誤を奨励でき、新しいアイデアを積極的に提案・実行できます。
優秀な人材の獲得と定着
優れた人材の採用とその継続的な活用は、競争力を高めるために不可欠です。
従業員が成長できる環境が整っている企業には、優秀な人材が自然と集まります。スキルアップやキャリアパスの明確化、柔軟な働き方の推進などは、人材にとって魅力的な要素となります。
従業員は、自分の成長やキャリアの進展が企業に貢献していると感じることで、企業に対するエンゲージメントが高まり、離職率が低下します。定期的なスキルアップの機会や、自らの能力が評価され、適切な報酬や昇進につながる制度がある企業は、社員にとって魅力的な働き先となります。
リスク管理の強化
市場や技術、規制の変化に対応するためには、柔軟かつ適切なリスク管理が必要です。
人材のスキルと知識は、企業が不測の事態に対応する際のリスク緩和につながります。優秀な人材を育成し、配置することで、突然の市場変動や技術革新、規制の変更に迅速に対応できる体制が整います。
従業員のエンゲージメント向上もリスク管理の観点でも重要です。エンゲージメントが高い従業員は、自らの仕事に責任を持ち、問題が発生した際には積極的に対処しようとする傾向があります。従業員が自らの役割に意義を感じると、組織全体としてリスクが顕在化する前に察知し、早期対応が可能となります。
キープレイヤーが企業から離職し、ノウハウの流出など企業に損害を与える人材流出リスクを抑える効果もあります。従業員のキャリア成長をサポートし、職場環境を整えることで、優秀な人材の流出を防ぎ、組織の安定性を確保します。
企業のブランド価値向上
企業の理念や目標に沿って行動する社員は、顧客に信頼される存在となり、企業の評判を高めます。
企業文化や社会的責任(CSR)の実践も、ブランド価値を高める要素です。持続可能な発展や社会的責任を果たす活動に力を入れることで、従業員がそれに共感し、外部に対してもその姿勢が発信されます。
業績の安定と向上
業績は売上や利益といった定量的な指標によって測られますが、それを支えるのは従業員のパフォーマンスです。
従業員のパフォーマンス向上、定着率向上、柔軟な対応力の向上は、業績の安定と向上に直結します。研修や教育によって従業員のスキルを向上させることは、生産性を向上させるだけでなく、企業全体の競争力強化にもつながります。従業員のエンゲージメントを高め、定着率を向上させることで、優秀な人材を長期間にわたって確保でき、離職に伴うコストを削減しつつ、社内に知識やノウハウが蓄積されます。
社会的責任の履行
現代の企業は、単に利益を追求するだけでなく、社会に対してどのように貢献しているか、どのように責任を果たしているかが問われています。
働きやすい職場環境を提供し、従業員の健康や安全を守ることは、企業の基本的な社会的責任です。リモートワークやフレックスタイム制度、育児休暇や介護休暇の充実といった柔軟な働き方を提供することで、従業員が仕事と私生活のバランスを保てるよう支援します。
多様性とインクルージョン(D&I)の推進も、CSRの重要な要素で、性別、年齢、国籍、障害の有無などに関わらず、多様な人材が平等に働ける環境を整えることを重視しています。
地域社会への貢献も社会的責任の要素で、例えばボランティア活動や地域プロジェクトへの参加を奨励することで、企業は直接的に地域社会の課題解決に貢献できます。
人的資本経営のデメリット
短期的成果が見えにくい
時間をかけて従業員の成長や組織全体の能力向上を目指す長期的な取り組みであるため、すぐに目に見える成果を得ることが難しい場合があります。
例えば、従業員のスキルアップやキャリア成長を促進するための教育制度は、実施から成果が出るまでに数か月~数年かかることもあります。経営陣や株主からは、短期的な投資リターンが期待される状況下で、人的資本への投資が成果を生み出しているかどうかを判断しにくいという課題が生じます。
短期的に効果が実感できない場合、継続的な投資が疎かになるリスクもあります。目先の業績改善に迫られ人的資本への投資が削減された結果、長期的な成長機会を損失する原因となることも考えられます。人的資本経営を成功させるためには、短期的な視点にとらわれず、長期的な視野での計画と評価が必要です。
コストの増加
研修や教育プログラムの実施にはコストが伴います。従業員が業務に必要なスキルを習得し、継続的に能力を高めていくためには、外部の講師を招いた研修や資格取得支援プログラム、社内トレーニングの整備などが必要です。企業にとって短期的な支出となり、特に中小企業にとっては大きな負担です。
人材を採用し育成するにもコストがかかります。求人広告や採用プロセスの管理、面接や選考にかかる時間も企業のリソースなので、全体的なコストが増加します。
さらに、福利厚生やインセンティブ制度の整備も同様です。フレックスタイム制やリモートワークの導入、健康管理プログラム、キャリア支援制度など、働きやすい環境を整備するためには、追加の設備投資や管理コストが発生します。
全社員に対する効果のばらつき
従業員一人ひとりのスキルや能力を引き出すのが理想ですが、全員が同じように恩恵を受けたり、成長したりするわけではありません。このばらつきが、組織全体のパフォーマンスに対して期待通りの結果をもたらさない場合もあります。
個々の能力やモチベーションに違いがあれば、従業員によって吸収力や学習スピードにも差があります。積極的に学び、成長を求める従業員は効果を発揮しますが、そうでない従業員にとっては、提供される機会が効果的ではありません。
職種や役割に応じた適用の難しさも挙げられます。職種や業務内容によって必要とされるスキルや知識は異なるため、一律の施策では特定の従業員には効果が限定的になり、逆に必要な支援が不足してしまうこともあります。
キャリア志向や価値観の違いも影響します。全従業員がキャリア成長や学習機会を求めているわけではなく、個々の目指すキャリアパスやライフスタイルによって、成長機会への取り組み方がばらつきます。特定の施策が一部の従業員には効果的であっても、他の従業員にとっては魅力的でない、もしくは適切でない場合があり、効果に差が生じることがあります。
人材流出のリスク
多額の投資を行い、従業員を育成しても、優秀な人材が企業を離れてしまうと、その投資が無駄になってしまいます。従業員のスキルアップやキャリア形成に注力することで、従業員の市場価値が高まった結果、競合からより良い条件で引き抜かれる可能性があります。
従業員のキャリア目標と、企業の提供する成長機会とのミスマッチも人材流出を招く要因です。すべての従業員が同じキャリア志向や目標を持っているわけではなく、従業員の期待に合わない場合、その従業員は自身の自己実現をできる別の企業を選択する可能性が高くなります。
変革に対する抵抗
変化に対して抵抗する社員がいる場合、変革はスムーズに進まず、組織全体のパフォーマンスにも悪影響を及ぼすでしょう。
従業員が新しいシステムやプロセスに適応することへの不安や抵抗、例えば、従来の業務フローやルーチンに慣れた従業員は、新しいツールや業務手法に反対するケースです。長期間同じ業務に従事してきた従業員や、変化に対するリスク回避志向が強い従業員にとって、新しいスキルの習得や業務プロセスの変更は負担となり、変革への抵抗が起こりやすいです。
企業文化や組織風土が変革に対応できていない場合も、抵抗が強まる要因となります。従来のヒエラルキーや一律的な評価制度を見直し、より柔軟でオープンな組織運営を求めたとしても、企業文化が保守的だと、「これまでのやり方を変えたくない」という心理が強まり、変革に対して抵抗する傾向が強くなります。
トップダウンで進められ、現場の従業員が関与しにくい場合も抵抗の原因となります。十分に説明されないまま新しい施策が導入されると、従業員は不信感や疑念を抱くことがあります。「自分たちには関係がない」「なぜこの変化が必要なのか理解できない」といった思いが広がると、協力が得られません。
人的資本経営を導入するステップ
経営戦略と人材戦略を連携させる
人的資本経営を効果的に導入するための最初のステップは、「経営戦略と人材戦略を連携させる」ことです。企業全体のビジョンや目標を実現するために、従業員一人ひとりのスキルや能力をどのように伸ばすか、活用するかを明確にします。
例えば、企業が新しい市場に進出したい、イノベーションを促進したい、または業界内での競争力を強化したいといった目標を掲げている場合、その達成に必要な組織構成と組織の役割、役割を果たす為の人材のスキルセットが定義されなければなりません。経営戦略にアラインしない人材戦略は的外れになってしまうためです。
人事評価制度やキャリア制度、インセンティブの導入によって、経営戦略を実現するための行動を促進することも必要です。経営目標を達成するために必要な行動や成果を人事評価の基準に組み込み、従業員が経営戦略に貢献するモチベーションを高める仕組みが必要です。努力や成果を正当に評価し、報酬や昇進に反映させることが、経営戦略と人材戦略を効果的に連携させるための重要なステップです。
目標と現状のギャップを可視化し、育成計画を立てる
次に、目標を達成するために、各部署の人材がどのようなスキルを持った人材なのか、スキルレベルを把握し、目標達成に必要なスキルとのGAPを見つけ、強化するべき人材×スキルを具体的に把握し、それに基づいて育成計画を立てます。既存顧客からの売上がメインの企業が、新規開拓営業を強化する戦略を掲げるのであれば、当然顧客にどうやって価値を届けるのかを根本から考え直し、最新のテクノロジーを駆使した生産性の高いオペレーションを構築できる人材が必要になりますし、そのオペレーションの実行に必要なスキルは今まで身につけてきたスキルと別のスキルが必要になるでしょう。それらをどうやって身につけていくのか(研修やトレーニングなど)、またその優先順位、スキルを身に着けた場合に予測される売上などの計画を立てます。
このとき、ギャップを明確に可視化するためのAIによるスキル計測ツールを導入することも効果的です。スキルをある程度の精度を持って客観的に数値化するには、人間では限界があり、AIによる客観評価が有効です。また、必要重点スキルをいくつか設定し、目標に対する進捗状況を定量的に評価する仕組みを構築することも可能になります。どの部署や人材が目標に対してどの程度進展しているのか、あるいは遅れが出ているのかを把握することができます。
KPIを設定
KPIを設定することで、人的資本に対する投資がどのように企業の成長やパフォーマンスに貢献しているかを可視化し、戦略的な意思決定をサポートします。
人的資本経営におけるKPIは、企業が従業員のスキルや能力をどのように強化し、それが業績や競争力にどのように寄与しているかを評価するために設定されます。
KPIを設定する際には、経営目標と連携した具体的で測定可能な指標を選定する必要があります。新規顧客開拓が目標の場合、「新規受注数」や「新規受注金額」などがメインのKPIになります。しかし、これらは「遅行指標」と呼ばれるもので、その前の先行指標として「営業活動数」や「スキルレベル」などがあり、さらにその前には「研修参加数」や「トレーニング実施数」などが存在します。
KPIを設定する際には、適切な目標値も必要です。目指すべき具体的な数値目標を設定し、達成可能であるがチャレンジングな目標を掲げることで、従業員全体のモチベーションを引き上げます。初回商談でのヒアリングスキルレベルを平均3.2点以上にするといった具体的な数値目標が考えられます。
施策の効果検証をする
実施された施策が効果を発揮しているかを定期的に評価・改善することで、従業員の成長や企業のパフォーマンス向上に向けた取り組みが一層効果的なものとなります。
施策が目指していた成果が達成されているかを検証することはもちろん、プロセス全体を見直すことで、施策がどの部分で効果を発揮し、どの部分で改善が必要かを洗い出します。
事前に設定したKPI(重要業績評価指標)で施策の効果を数値的に評価することが基本です。研修の参加率やスキル向上の度合い、業績に対する影響など、定量的なデータを用いることで、施策の効果を客観的に評価できます。
外部リソースの活用
しかし、これらの一連の流れを社内だけでやろうとすると、リソースや経験が不足し、計画だけで半年かかってしまったり、実行したがそもそもの計画が悪くうまくいかず、数年を無駄にしてしまうケースもあります。特に営業変革は非常に難しく、事業戦略とどう整合性を取るのかというロジック部分はもちろん、実際に進めていくのも困難を極めます。実際に経験のある専門人材の活用もおすすめです。
まとめ
人的資本経営は、従業員一人ひとりの能力や知識を企業の持続的成長と競争力強化に活用する経営手法です。短期的な成果が見えにくいなどの課題はありますが、長期的には経営計画の達成や競争力向上、社員エンゲージメント上昇など多くのメリットをもたらします。
成功には、経営戦略と人材戦略の連携、目標設定、効果測定・検証が重要です。特にスキルの数値化に成功している企業は少なく、これらを整備することにより、企業は変化の激しい環境下でも持続的な成長を実現できます。
人的資本経営は単なる人事施策ではなく、企業全体の戦略的アプローチです。従業員と企業の成長を同時に実現し、長期的な企業価値向上につながります。今後のビジネス環境で、その重要性はさらに高まるでしょう。人的資本経営は、企業の未来を築く鍵となるのです。
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